タナカリョウの穴あきブック
第16回「カミングアウト」
7月です。
日に日に上昇していく気温と不快指数。梅雨が存在しない北海道の人を、これほどうらやましく思う季節はありませんね。僕は最近、奮発して5000円で購入した傘を即日パクられました。傘は消耗品かつ共有物なのだろうか。かさが〜な〜い〜♪頭の中では井上陽水の曲がリフレインしていました。皆様、傘をパクっちゃうのは、窃盗罪ですよ!!
このムシムシした気候のおかげで、マイルームのクーラーも高稼動状態。このマイクーラーは、何を隠そう青緑色。というのも、高校3年生の時に自分でポスターカラーで塗りたくったんですよね。ちょうど受験勉強の真っ只中。進学校だったゆえに、友人や彼女は当然のように勉強に没頭。僕はというと「まあ推薦で入学できるだろう」と安易に考え、勉強もロクにせず地元の友人とファミレス→麻雀大会の日々。アルバイト先でも遊び呆けていました。プチ堕落生活が続いた夏休みのある日、余りにも暇だったので、突然塗りたくなったんですな。「バスキア」を観た直後でした。青と緑の絵の具を何層にも何層にも重ね、部屋にはほのかなシンナー臭が充満。完成したオリジナルカラーのクーラーは、芸術的要素ゼロ。ただの「?」なものでした。ほか、押入れの戸にマーチンルーサーキングの演説文をつらつらと書き込んだり、部屋の入り口のドアに「KNOCK ME DOWN」と描いたり(レッチリの曲名から抜粋)と、今思えばかなり鬱的な行動が多かったですね。押入れの戸はハズしましたが、今尚残るドアの落書きとクーラーを見るたびに、その時の精神状況がありありと浮かんできます。(その後、大学は無事「指定校推薦」で合格。エヘ)
突然の軽〜いカミングアウト。ビックリしましたか? 「あびる優」事件なんかもありましたが、この「カミングアウト」という行為、客観的に見ればかなり「ギリギリ」なものです。人に知られたくない事実を、何かのタイミングで誰かに告げるというのは、その背後にある心理的葛藤を想像すると、かなり奥ゆかしいものだと思います。僕の場合なんて些細なものですので、この範疇には入らないかもしれませんが、「自分をさらけ出す」という事はコミュニケーションにおいても重要な部分ですよね。本音で語り合えない人は「親友」とは呼べないだろうし、隠し事をしている方もなんだか気まずい。すべてをさらけ出す必要は無いにしても、弱い面も含めたトータルの「自分」と向き合ってもらう為には、避けては通れない道なのかもしれません。自らの「イタイ」過去を笑いながら話す人、大好きです。自分のコンプレックスを「笑い」や「誇り」に変える。なかなかできることではないのかもしれませんが、そういう人って、ちょっと魅力的です。
今回ご紹介するこの2つは、「ヤバイ」過去を充分に咀嚼して吐き出された、いわば作者の結晶的作品。ドラゴンボールで言えばアックマンの「アクマイト光線」で導きだされた「悪の心」。爆発寸前の問題作とも呼べる趣です。一見「ギリギリやなぁ〜」と思っちゃいますが、そこは才能、しっかりと読ませてくれるノンフィクション作品たち。はい。
「失踪日記」 作・吾妻ひでお イーストプレス

「やけくそ天使」や「オリンポスのポロン」、「パラレル狂室」「不条理日記」などなど、ギャグからSFまで幅広いジャンルの名作を数々送り出してきた吾妻氏による衝撃の回顧録。突然の失踪、ホームレス生活から配管工への転身、アルコール依存症による自殺未遂、強制入院……。4頭身キャラのコミカルな絵柄で描かれる、どう見ても「笑えない」事実の数々。ドラマチックとはお世辞にも言えず、苦労を乗り越えた人間ならではの説得力もさほどない。お堅いメッセージ性も皆無。

「全部、実話です(笑)」と作者自らが帯で述べているように、ただそこにあった事実を赤裸々に描写しただけなんですが、どこか爽快なこの読後感はなぜ?? そこは筆者の構成力の賜物。恐るべきは人間の生命力ですね。「すべてを棄てて、どこか遠いところへ行きた〜い!」などと会社のデスクで日々感じているアナタ。とりあえずは必見です。
「刑務所の中」「刑務所の前」 作・花輪和一 青林工芸社



趣味のモデルガン収集が高じた銃の違法改造により、銃砲刀剣類等不法所持&火薬類取締法違反で懲役3年の刑を受けた作者が、自らの刑務所生活を語った大ヒット作品「刑務所の中」。山崎努主演で映画化もされました。刑務所という異質な閉鎖的空間、その中での日常を緻密なまでに描いた本作は単なる体験談に留まらず、些細な出来事で揺れる人間心理や独特の緊迫感を見事に描写しています。マーガリンに感動する作者の精神状態、囚人同士の取りとめもない会話……。前述の「失踪日記」同様くだらないとも言えますが、そんな小さなドラマの連続はどこか心地よく、一気に読ませてくれる作品です。
その後に出された「刑務所の前」は、タイトルどおり刑務所に入る前の話なんですが、こちらはトリップ度が倍増。なぜかいきなり時代劇に突入するなど、花輪ワールド全開のキレッぷりです。銃に対するマニアっぷりも如何なく発揮。非常にとっつきにくい作品とも言えますが、一度ハマれば抜けられない、そんな魔力を持った「ガロ系」特有の作品に仕上がっています。続刊中。

上記の2つはどちらも体験談に基づくノンフィクション作品で、後天的な「汚点」を公開するタイプのカミングアウトです。体のことや育った環境といった先天的なコンプレックスではありませんが、本質的には変わりないのではないでしょうか。差別問題などが絡むとついついデリケートな方向へ向いてしまうものですが、ただひとつ言える事は、「意外に人は気にしない」という事。自分で抱え込みすぎている部分も多々あるのではないかと正直思ってしまうんですね。それにより態度を変える人は、悲しいかな所詮そこまでの関係。「笑いに変える」という自虐的行為ばかりがイイとは思いませんが、やはり人は1人では生きられない。「1人で悩むくらいなら吐き出してみようよ」ということですね。ポジティブすぎ?? 前のコラムでも書いたかもしれませんが、人はコンプレックスも含めたトータルで判断すべき。誰でも絶対ひとつふたつはあるもんですから。そう言う僕もコンプレックスの塊。悩み相談に付き合ってくれる方、募集中!
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