タナカリョウの穴あきブック
第8回「宿命」
いやぁ、今年の野球はいろんな意味でおもしろかった!
近鉄合併に伴うストライキ、新球団参入。激闘の日本シリーズに、イチローのメジャー記録。そういえば甲子園もはじめて北海道に優勝旗がっ。
で、特にイチローなんですが、まあ僕はもともとそんなに好きじゃないんです。インタビューが。でも、後半の鬼気迫る打ちっぷりには感動しました。最近よく言われている「イチローはシスラーの生まれ変わり」説ですが、これもまあどうでもエエ話。シスラーが死んだ7ヵ月後にイチローが生まれたからってのも無理矢理すぎますよね。それなら吉川晃司が生まれた8月18日は秀吉が亡くなった日。こっちのほうが信憑性があるゾっ!!!
話がそれましたが、要はイチローが生まれもっての天才打者であったか否か。もともと彼は甲子園にピッチャーとして出場し、オリックス入団当初も投手としてでした。野球の才能があったこと自体は間違いナイ。その後、打者に転向し、数々の記録を打ち立てたわけですが、「野球をしてメジャー記録を出すことこそ、彼が生まれもった『宿命』だった」といいたいわけですマスコミは。だってローマンティックだもん。
世の中には、生まれた時から自らの運命を決められている人間が、未だに存在しているのは事実です。例えば歌舞伎や落語などの伝統芸能の世界。市川新之助→海老蔵が記憶に新しいところですが、今の市川染五郎がゆくゆくは松本幸四郎になったりするわけで、後から見たらきっとややこしいでしょう。彼らは物心つかぬ間にそれを義務付けられ、数々の厳しい訓練を強いられてきたのです。基本的に、「宿命」は後付けするものではナイんですね。生まれたそのときから、名前と一緒に背負うものが殆どであると思います。まあ、事を成した人が、「これは僕の宿命でした」というのは良くあることですし、それなりに心に響く言葉ではあります。だってローマンティックだもん。
今回は、とある「宿命」を背負った主人公の物語をご紹介。まあマンガやゲームには良くある設定ですが、この作品は一風変わっております。れっつらどん。
「ジャパッシュ」 望月三起也・作 双葉社とか大都社とか集英社とかいろんな出版社


マヤの破滅の予言により、ナポレオンからヒトラーまで、数々の独裁者を生んだのは天意だった、と。で、ヒトラーの次の独裁者が「ジャパッシュ」。その宿命を背負って生まれた男、日向光。頂点に立つその日まで、彼の前に立ちはばかる障害はすべて取り除く。生まれたての彼の顔を見て、不吉なものを感じた産婆こそ、彼が初めて「取り除いた」ものであった。同じく幼少の彼を見て、その存在理由を感じた考古学者・石狩教授も、彼により殺害されたうえ館に火を放たれる。その孫は、彼の幼馴染、石狩五郎。火事により、顔に醜い傷跡を残す。後に二人は再会するが、復讐に燃える五郎は、その顔の醜さゆえ人に信じてもらえず、逆に天使のような美貌を持つ光は、そのルックスと知性で多くの人物を虜にしていく。
光の力は齢を重ねるにつれ強大なものとなり、「ジャパッシュ」と呼ばれる集団を率いて国家征服をねらうまでに至る。五郎は刑事として彼を追い続けるが、表面は国の自衛集団である「ジャパッシュ」の前にその力を発揮できない。美=善、醜=悪?そして物語は意外な結末を迎える…。
週間少年ジャンプの創刊時の作品。70年代において、主人公が悪役というのは極めて異例だったようです。近年、といっても7・8年前ですが、「オウムを予言した問題作品!」との触れ込みで復刊しました。本作に出てくる「ジャパッシュ」という青年集団が、村上龍の名作「愛と幻想のファシズム」の「クロマニョン」と酷似しており、小説のモデルになったとかならなかったとか。僕も高校時代にこの小説に出会い、人格形成に大きな歪みを生みましたっ! そういえば「愛と幻想の〜」の主人公、鈴原冬二や相田剣介、そのほか時田や洞木などの名前は「エヴァンゲリオン」の登場人物名にも使われていますね。庵野監督はこの小説にインスパイアされたことは間違い在りません。さらにいえば、「エヴァ」最終話のタイトルは「世界の中心で、アイをさけんだけもの」。ハーラン・エリスンのSF小説「世界の中心で愛をさけんだけもの」から来ているのですが、今年ブレイクした「セカチュー」もここから取ったのでしょう。つまり「セカチュー」ブームは「ジャパッシュ」が生んだのです。まさに連鎖。

話が逸れましたが、「ジャパッシュ」の主人公・光は、生まれた時から自分の「宿命」を知っていたのです。それに乗っ取って行動し、結果的に五郎が障害となったわけです。母親の恨みを晴らすために生まれた「修羅雪姫」(キルビルの元ネタ)の雪も、幼い頃からそれを悟り、厳しい修行に自ら挑んだのです。彼らのような生き方は、非常に酷なこと。自らの意思を超えたもの、それが「宿命」。あまりに重過ぎる「生きる糧」ですね。そう考えると、僕なんかはすごい恵まれているなあとも思うわけで。きっとイチローも「宿命」なんて恐れ多いものではなかったわけで。
逆を言えば、自分で自分の生き方を決めることの方が難しいかもしれませんね。自分の意に反したとしても、「だって宿命だもん」なんて責任転嫁できませんもんね。自らの力で、自らの目標を達成したイチロー、本当にスゴイと思います。嫌いやけど、インタビュー。目的を定められて生きること、目的を自分で見つけて生きること。是非を問う問題ではありませんが、「生きる」って、ホントは大変なんだなぁ…。
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